子ども脱被ばく裁判につながるみなさま
7月9日に開かれた第20回子ども脱被ばく裁判の報告をお届けします。ご都合をつけて裁判にご参加くださった県内や近県、関東や関西から支援者約40名のみなさまに感謝申しあげます。午前中は原告・横田麻美さんのヨーロッパ巡回講演報告、モニタリングポストの継続配置を求める市民の会共同代表・片岡輝美さんからモニタリングポストの当面継続配置に至る報告がありました。
横田さんは3月10日から約3週間、フランスを中心に市民団体や高校大学、イギリス議会院内集会などで18講演を行い、東電福島第一原発事故から2年後、北海道の高校に進学したご子息の決意、福島に留まる母親の思いを伝えました。今回の巡回講演はご子息を主人公とする漫画がフランス語で出版され学校図書となった経緯から実現したものです。どの会場でも質問が多くあり、福島原発事故被害を自分のこととして考える市民・学生の姿が印象的だったとお話されました。
片岡さんはモニタリングポスト(MP)2400台の当面継続配置を引き出したのは住民、特に各地の母親たちであることを報告。日常的に数値を確認している自分は撤去されることを不安に思っていたが、阻止されたことにとても安心したと感謝を伝えてきた中学生や、子どもにこそ環境放射線量を知る権利があると訴えた母親の言葉を紹介しました。しかし方針変更後の第4回原子力規制庁交渉では「MPの適正化」を巡って見解の相違が露わになりました。市民の会は適正化は台数の削減ではなく配置場所の変更と考える一方で、事業主である原子力規制委員会の判断によっては台数を減らすことはあり得るとの説明があったからです。市民の会は国の責任として廃炉までMP継続配置を求めていくと締めくくられました。
福島地裁前では支援者のアピールが続いた後、武藤類子さんから国家公務員宿舎から退去できない63世帯に、福島県は家賃2倍の損害金請求を発送した情報が報告されました。県民に対する懲罰とも言える行為に非難の声があがりました。事前協議で証人尋問の日程調整に時間がかかり、午後2時30分からの開廷は30分以上遅れて始まりました。意見陳述をした原告は時折涙で声が詰まりながら、8年間の後悔や不安を法廷で語りました。「できれば裁判などには関わりたくありません。しかし、自分の子どもだけでなく子ども達皆を大切に守っていく社会になってもらうためには声を上げることができる親が声を上げないといけないと思います」と結びました。裁判の内容については弁護団報告をご覧ください。
裁判後の記者会見や意見交換では活発なやりとりがありました。特に弁護団からは担当裁判官が放射性微粒子や内部被ばく問題に積極的に取り組む姿勢が見られるとの報告があり、さらにいよいよ証人尋問に入っていく期待感と緊張を誰もが感じました。子ども脱被ばく裁判の会は9月から始まる証人尋問に備え100万円緊急カンパを呼びかけます。6名前後の科学者・医師を証人として招く時に必要な証拠作成、交通費、宿泊費の費用を捻出するためです。ぜひこの裁判を広め、多くのご協力をいただけるようにみなさんのお力を貸してください。最後になりますが、今回裁判所に提出された署名数は4545筆。総計は73959筆になります。全国からのご協力に深く感謝致します。次回期日は10月1日(火)午前10時10分からの開始。午前と午後に証人尋問が行われます。その後は11月13日、12月19日、1月23日、3月4日になります。山下俊一氏の証人尋問は3月4日に実施される見込みです。引き続きのご支援をお願い致します。
子ども脱被ばく裁判の会
2019.7.9 子ども脱被ばく裁判第20回口頭弁論期日報告
弁護団長 井戸 謙一
1 原告側は準備書面73を提出しました。この準備書面は、被告国の準備書面12(低線量被爆の健康被害について述べたもの)及び準備書面13(内部被ばくについて述べたもの)に対する反論を内容とするものです。
2 被告国は次の2通の準備書面を提出しました。
(1) 準備書面14
福島第一原発周辺の土壌には福島原発事故由来のプルトニウムが存在するが、その量がわずかであるので、健康上のリスクはないというもの
(2) 準備書面15
子どもの放射線感受性が大人よりも高い前提で放射線防護対策がとられているが、低線量被ばくにおいては、高いという科学的根拠はないことを述べたもの
3 被告郡山市、田村市、福島市、会津若松市は、低線量被ばく及び内部被ばくについては被告国の主張を援用する(国の主張するとおりなので独自の主張はしない)との内容の準備書面を提出しました。
4 原告側は、7人の証人尋問申請書を提出しました。その採否について、最終的な決定は留保されましたが、郷地秀夫氏、河野益近氏、山下俊一氏については証人尋問を実施する方向であることが確認されました。
5 いよいよ次回からは、証人尋問が始まります。引き続きご支援をお願いいたします。
次回期日は10月1日(火曜日)午前10時10分に開始され、午前、午後実施されます。
以上
第20回子ども脱被ばく裁判 原告意見陳述 2019/07/09
本日は、意見陳述の機会を与えていただき、ありがとうございます。
私は、福島県二本松市内の自宅で、夫、二人の子ども、夫の母の5人で生活しています。上の子は既に成人していますが、下の子は、現在9歳で、福島原発事故当時は誕生日前の乳児でした。夫は、サラリーマンであり、私は、主婦として家庭にいます。
2011年3月11日の大地震で、自宅建物は少しひびが入りましたが、私たち家族は、そのまま住み続けていました。その後、福島第一原発で爆発が続きましたが、私は、原発とは距離があったし、行政から何の指示もなかったので、危機意識を持つこともなく、それまでと変わらない生活をしていました。幼い二男を連れて買物等のために外出もしていました。その後、知人から被ばくの怖さを聞いたり、講演会に出かけたりする中で、被ばくによる健康リスクについて徐々に知識を持つようになったのです。
幼い二男の健康が心配になり、条件が許せば避難もしたいと思いましたが、夫には仕事があるし、母子だけの避難には踏み切れませんでした。その代わり、数日間福島を離れるというプチ避難を何度もしました。春、夏、冬には、沖縄や北海道等の市民団体を頼って、必ず二男を保養に連れ出しました。
夫は、当初は、「国が大丈夫だと言っているのだから大丈夫だろう。」という考え方でしたから、夫婦間で、プチ避難や保養に関して、何度も揉めました。その後、講演会に参加してもらったりする中で、夫も少しずつ理解をしてくれるようになりました。
二男は、甲状腺に小さな嚢胞の存在を指摘されたことがあります。また、福島原発事故から2~3年経過したことから、絶えず鼻水を出すようになりました。しばらく様子を見ていましたが、よくならないので、平成26~27年ころ、病院で診察を受けさせたところ、「蓄膿症」と診断されました。一時期投薬治療を受けましたが、湿疹がでたこともあって、現在は投薬をやめています。症状は改善されていません。二男が蓄膿症になった原因は分かりませんが、被ばくも原因ではないのかという思いを捨て去ることができません。また、二男には、外遊びをあまりさせなかったので、二男自身が外に出たがらないようになってしまい、その点でも不憫に思います。
今でも、私の自宅付近では0.2マイクロシーベルト程度の線量があり、安心できる数値ではありません。地元の食材は使わない、洗濯物を外に干さない等の配慮は今でも続けていますが、ご近所の方や知人と被ばく問題について話をすることは、しづらい雰囲気になってしまいました。
福島原発事故前、私は、被ばく問題について全く知識がありませんでした。原発事故が起こった後も、当初の1か月くらいはほとんど警戒心をもっておらず、何の防護対策もしていませんでした。安定ヨウ素剤のことも知りませんでした。私が、自宅周辺の空間線量の数値をはじめて知ったのは、2011年の5月か6月になって、市の広報を見たときだったと記憶しています。しかし、マイクロシーベルトの数値を見ても、当時は、その持つ意味が分からず、危険か安全かの判断もできませんでした。
私は、福島原発事故当初の約1か月の間に二男に無用な被ばくをさせてしまったのではないかと心配しています。このころは買物等に二男を普通に連れ出していました。二男はまだ母乳を飲んでいましたので、母体が栄養をつけなければいけないと思い、出荷停止になっていた牛乳をもらって毎日のように飲んでいました。当時私は、牛乳が出荷停止になった意味さえ分かっていなかったのです。母乳に放射能が含まれていたのではないかとの不安は尽きません。将来、二男に被ばくによる健康被害が生じたら、悔やんでも悔やみきれません。
私は、今でも長期の休みには二男を保養に行かせています。子供たちにはまだまだ保養が必要だと思いますが、行政が保養について全く協力してくれないので、保養に関する情報が若いお母さんたちに拡がらないのが残念です。
私は、行政が、「安全、安全」というのではなく、事故直後から、線量とその数字が持つ意味を住民に正しく伝え、住民一人一人が被ばくを避けるための援助をするべきだったと思います。そして、せめて自宅の除染が終わるまでの間、行政の責任で避難させてほしかったと思います。
私は、自分が裁判の原告になるなど、思ってもみませんでした。できれば裁判などには関わりたくありません。しかし、自分の子どもだけでなく、こども達みなを大切に守っていく社会になってもらうためには、声を上げることができる親が声を上げないといけないと思いました。裁判官の皆様には、子どもたちの健康を守るという最も大切な義務を怠った国や福島県の責任をはっきりと認めていただきますようお願い致します。
以 上