2018年12月17日月曜日

第17回子ども脱被ばく裁判報告と感謝





第17回口頭弁論期日・弁護団報告 (2018/12/11)

1 2018年12月11日14時30分から、子ども脱被ばく裁判第17回口頭弁論が開かれました。原告側から準備書面(62)、(63)、(64)が提出されました。原告準備書面(62)は、既に提出されている国の第10準備書面に対する反論です。国は同準備書面において、「原告らの主張する『年1mSvの被ばくであっても、無用な被ばくによる健康被害を心配しないで生活する権利』なるものは、国賠法の救済が得られる具体的な権利ないし法的利益とはいえない」、「一般的、抽象的な健康リスクに対する不安感のみをもって国賠法の救済が得られる権利ないし法的利益があると認めることができない」、損害と請求原因との因果関係が明らかでない、そして「消滅時効の援用」についていろいろと述べています。これに対して、原告準備書面(62)では、抽象的な危惧感や不安感を権利ないし法的利益として主張しているのではなく、被ばくを避けて、健康に生存・生活するという個人の基本的な権利(健康13条、25条)が住民の健康と福祉を守る責務を有している被告らの行為によって意図的に侵害されたことで現実的に発生している将来への健康不安という精神的侵害の賠償を求めているものであること、消滅時効については時効の起算点が,「被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知った時」であり最判も「被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう」としていることを明確に説明しています。
また、原告準備書面(63)では、河野益近氏による調査を紹介し、福島県内の土壌中の放射性セシウムが不溶性微粒子の形態で存在し、県内子ども原告らが今後も福島県内に住み続けた場合に、同微粒子の摂取による健康被害を受けるリスクがあることを立証しています。
そして、原告準備書面(64)では、SPEEDIシステムの運用について、関係道府県と文科省、システム運営を受託する(財)原子力安全技術センター関係者らが定期的に連絡会議を持っていたこと及びそこで議論されていた内容を説明し、あわせてSPEEDIシステムは、原子力災害応急対策の基幹システムとして法令上も位置付けられていたこと、また、端末を設置していた被告福島県は災対法によってその情報を住民の防護対策のために利用しなければならず、被告福島県のSPEEDI情報の取り扱い(メール廃棄を含む)は、法令上の義務違反にあたることを説明しています。

2 基礎自治体(福島市、会津若松市、田村市、郡山市、伊達市)から準備書面が提出されました。原告準備書面(61)で「各市町村内の総合病院の患者数の推移を調査し」その結果を明らかにすることを要望していますが、いずれも、その要望に応じる必要はないという内容です。

3 今回、国から第11準備書面が提出されました。原告準備書面(55)において、「放射線管理区域規制の趣旨について」「20mSv通知の趣旨について」「低線量被ばく、内部被ばくの危険性について」の3項目ついて、国に対して求釈明をしていますが、これに対し国が第11準備書面において回答して来ました。

4 また、今回の期日において山下俊一氏の講演内容がおさめられているDVDが、裁判官、原告の皆さん、原告代理人、支援者、被告代理人の前で再生されました。1時間を超える内容でしたが、後半の福島の住民の皆さんからの質問に対して「全く影響はありません。」という断言を連発していました。

5 山下俊一氏のDVDの再生、原告代理人の提出書面の要旨の説明に引き続き、原告であるお母さんからの意見陳述がありました。裁判官の皆さんにこのお母さんの気持ちが伝わっていると確信しました。
以上です。


第17回子ども脱被ばく裁判期日報告

子ども脱被ばく裁判の会共同代表 水戸喜世子

 12月11日午前11時から第17回目の口頭弁論と、それに先立って恒例の学習会が行われました。今回も遠方各地からの参加をいただき、ありがとうございました。日頃カンパや署名活動、お話会の開催などを通じて温かいご支援をいただき、お蔭で私どもの訴えは着実に浸透していることを実感しております。今回提出の署名数は 1,270筆、延べで61,518筆となりました。ここに日頃のご支援に深く感謝申し上げ、さらなるご支援を心よりお願い申し上げます。

 今回の学習会ではそろそろ裁判での論点もほぼ出尽くしたという事で、井戸弁護団長にこれまでの振り返りをしていただきました。それを聞いて改めて、この国 前代未聞の被害に対する前代未聞にならざるを得ない裁判にかける弁護団の意気込み、粘り強い追及に改めて感銘を受けました。また弁護団を支える研究者のご支援にも感謝の思いを一層深く致しました。講演を補足して、原告の子どもが通う学校周辺の通学路の土壌をふるいにかけ、微細粒子を測定して、放射性セシウム物質の98%が不溶性粒子の形で存在していることを検出された河野益近氏の発言もいただきました。

 午後からは福島地裁前に、支援の旗がはためき、各地参加者から力強い取り組みの報告や支援の熱い思いを交流し合ったのちに、傍聴に臨みました。法廷のやり取りの詳細については弁護団報告に譲るとして、法廷で1時間余に及ぶDVD上映が実現したことは私自身にとっても初体験でした。それは事故直後の3月21日に福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの資格で山下俊一氏が福島市で行った講演を録画したもので、画面の中で繰り返し語られていたのは毎時100μSvでも心配ないという耳を疑うような内容でした。山下医師の冗談を交えた優しい語り口に、張りつめた思いで会場に詰めかけてきている聴衆からは、ホッとしたような笑い声さえ漏れる画面。こうやって、人びとから警戒心を解き、マスクを外させ、 子どもを外出させ、被ばくを推進する結果を生み出したのかと思うと、怒りを抑えることができません。8年近くの時が流れ、子どもの健康被害が顕在化する中で、山下発言の醜悪性が法の裁きを受ける時が遂にやってきたのです。

 この日の法廷で、深い感銘を与えたのは原告のお母さんの陳述でした。「もう7年も経つのに、なぜこんなに悲しくなるのか?」と声を詰まらせて始まった陳述は、 不安、恐怖、差別と母娘で格闘して過ごした年月を振り返り「この悲しみは癒えることも、消える事もありません」と結ばれました。温かい励ましの拍手が法廷に響きました。これこそが裁かれるべき真実であると誰しもが思いました。

 最後に 井戸弁護団長の講演内容の概略をまとめておきます
1,門前払いを回避するための弁護団の尽力について。
 今は亡き澤野伸浩さんとそのお弟子さん、今中哲二さんらのご協力により、「安全な地域」を米国NNSA測定のデータ、文科省の航空機モニタリングデータを元に地図にして可視化し、特定できたこと。
2,裁判所との攻防の末、約2年後にやっと実質審議に入ることができたこと。
3,国の言う「100mSv以下では、被ばく由来と言える確率的健康被害は見えてこない」への反論として、権威ある幾つかの論文や崎山比早子医師、郷地秀夫医師の意見書を提出し、低線量被ばく、内部被ばくのリスクの重大さを強調してきた。
4,現在も子どもの環境に不溶性の放射性微粒子が土ほこりに付着する形で存在していることが実測により明らかになった。体外に排出し難くなり、ICRPの生物的半減期の考え方は適用できず、内部被ばくのリスクは、ICRPの考え方よりも当然大きくなるはずである。
5,国の主な反論は、「精神的苦痛」は法的保護に値しない。すでに事故発生から3~5年も経過しており、時効である(消滅時効)。これらについて、弁護団では、詳細な反論書を行なっている。不溶性放射性微粒子の問題については、これから国側から準備書面が出される。
 概ね論点についての原告側の主張立証は終了したと言えるが、これまでに 被告側からまともな反論は出てきていない。